相続士、はじまりのはじまり。

相続士の仕事はじめました。日々の仕事、出来事、雑感を書いています。

法定後見人と任意後見人のちがい

成年後見制度について書いたところ、読んだ方から、

もう少し詳しく知りたいというお問合せがありましたので、

書き足してみます。

 

成年後見制度では成年後見人という役割の人を決めますが、

後見人には『法定後見人』と『任意後見人』の2種類あります。

 

まず、『法廷後見人』。これは裁判所が決定します。

『任意後見人』は、後見される人が後見人を自分で選んで依頼し、

契約を結ぶもので『備えとしての成年後見制度』と呼ばれたりします。

 

「自分はまだ若いから必要ない」「縁起が悪い」、と

思われるかもしれませんが、案外他人事ではないですよ。

 

私が接した事例をお話ししますと・・・

 

私が成年後見制度の必要性を身近に感じたのは、

不動産会社で売買を担当していた時のことでした。

 

当時、Aさんという不動産業者が、

宅地開発をするための広大な土地を購入しました。

 

生活上、住宅地は道路とつながってないと困りますが、

その土地は公道とつながっていなかったため、

私道を作って公道とつなげる必要があります。

 

私道を作りたい場所に位置する土地の所有者はBさんです。

私のいた不動産会社がBさんと取引があったことを知って、

Aさんが手伝いを頼んでこられました。

 

Bさんはご高齢で、認知症を発症して医療施設に入所中です。

しかもほぼ意識のない植物状態で、意識はあるものの

会話や意思疎通は残念ながら全くできません。

 

このままでは土地の売買契約の締結は不可能です。

 

そこでまず、Bさんの相続人である息子さんのCさんを

探し出して(遠方にお住まいでした)連絡を取り、

事情を説明して、大分まで来ていただきました。

 

Cさんに土地の売却をお願いしたところ、

「他に使うあてもないので父は売却に反対しないと思いますし、

いずれ土地を相続するのは自分なので、いいですよ」と

言ってくれたまではよかったのですが、ここからが大変でした。

 

認知症を発症しておられるBさんは、“判断力が欠ける人”と

いうことになりますので、不動産の売買契約をするためには

成年後見人の同意が必要です。

 

それに、会話も署名もできないので、そもそも不可能です。

 

そこで後見人が代理で契約書に署名捺印することになりますが、

Bさんが自分で後見人を選ぶことはできない状態なので、

裁判所に決めてもらうことになります。つまり法定後見人です。

 

まずCさんが裁判所に法定後見人選定の申請をします。

証明書類を揃えるのはかなり手間がかかります。

 

数ヵ月後、ようやく書類が揃ったので、裁判所に申請し、

認められたのは、申請から約8ヶ月が経過していました。

 

裁判所は、利害関係や血縁関係、相続人が誰かなど

様々な観点から法的な立場で判断しますので、

必然的にそれ相応の時間がかかってしまいます。

 

しかも(これは別の問題ですが)その土地が農地だったため、

農地法の関係で、その後もかなりの労力と時間を要しました。

 

その間、住宅地の開発は保留になったままですので、

開発業者のAさんは資金繰りなど大変だったと思います。

 

Bさんの息子さんのCさんは、首都圏で自営業を営んでおられ、

手続きや打合せのために平日に何度も仕事を休んで足を運ぶ

ことになりました。

 

「しょっちゅう父の顔を見ることができて嬉しいです」と

Cさんは笑っていましたが、このような形になったのは、

Bさんとしては不本意だったのではないでしょうか。

 

 

一方、任意後見人は、判断ができるうちに、自分の意志で、

「この人なら安心して任せられる」と思える人を選定して

契約するため、法定後見人と比べればかなり迅速です。

 

全く必要ないぐらい元気なうちに任意後見人を選定しておけば

不測の事態への備えとなり安心ですし、また万一の時にも、

家族の負担が少なくて済みます。

 

任意後見人が『備えとしての後見人制度』と呼ばれるのはこのためです。